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利用者の声

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  • 大学中退後4年間ひきこもってしまった息子が 正社員として就職するまで。「後編」

    橋口香織さん(仮名)

    育て上げネットのさまざまなプログラムに参加しはじめた洋輔くん(仮名)。最終的にジョブトレに参加するようになると、わずか1年の間に、インターンから正社員就職へと進んでいくことになった。今、洋輔くんは働き始めて1年が経っている。

「面倒なことから逃げないでなんでもやってみよう」洋輔くんの意識を変えたジョブトレ。

PC講座のあとも、短期のプログラムに通っていたが、洋輔くんはアルバイトに応募できなかった。そこで、両親と洋輔くんは「3カ月でアルバイトを決められなければ、ジョブトレに行く」と約束。
またも洋輔くんは期限内に応募することはできず、ジョブトレに通うことになった。

【香織さん】
洋輔がジョブトレに行くことを拒んだのは、そういうところに行かなくてならないほど、自分がダメだと思うことがつらかったからだと思います。彼は、ある意味、追い詰められていたんでしょう。

このころ、「死にたくなる」と言われたことがありました。

傍目から見ると、楽しそうにしているし、ふだん通りに見えるのに、ふっとそんなことを言い出すものだから驚きましたし、ショックでした。
やっぱり本人が一番つらいんですね。

【洋輔くん】
いろいろなプログラムを受けていたら、「自分でアルバイト受けられるんじゃないかな?」と思ってきたんです。それで「3カ月待ってほしい」と親に頼みました。

こっそり新聞の求人折り込みを見たり、インターネットの求人サイトを見たりしてましたけど、たくさんありすぎて選べないんですよね。どれもできないというわけではないけれど、やりたいと思うものもない。

求人を見ていると胸が苦しくなって「今日はやめておいて、また明日からやろう」と思う毎日でしたから、1カ月くらいで、これはもう無理だなと思いました。

ジョブトレに通いはじめてからの洋輔くんは、どんどん気持ちが上向きになっていった。

【洋輔くん】
もともと自分から話しかけていくタイプではないんですが、そうすると誰も話しかけてこないんですよ(笑)。きっと僕みたいなタイプが多いんだろうと思って、思い切って自分から話しかけてみたら、少しずつ話ができるようになっていきましたね。
学校に行って友だちと話すのが好きだったんで、その感覚を取り戻したような感じでした。

【香織さん】
ジョブトレに通いはじめてから、私は毎日「今日どうだった?」と聞いていました。
「意外と体力仕事ができたり、キャラを作れるんだとわかった」と言っていましたね。
「失敗して怒られるのはイヤだから、面倒なことからは逃げてきたけれど、これからはなんでもやってみようと思った」というようなことも言ってました。

おそらく、スタッフのみなさんがうまいこと洋輔を持ち上げてくれて、ほめてくださったんじゃないかと思うんですよね。
学校を出たらほめられることもなかっただろうし、がんばったらそれだけの報いが得られる。そんな経験が本人にとってよかったのかなぁと思います。

洋輔くんは、ジョブトレに通いはじめて半年後、立川法人会でインターンを行った。
インターン期間が半年になろうとするころ、テキパキと働く洋輔くんの姿を見た社会保険労務士事務所の所長から「ウチで働いてみないか」と誘われ、現在はその事務所で正社員として働いている。
働きはじめてからすでに1年が経った。

【洋輔くん】
今だからそう思えるのかもれませんが、親が動いてくれたことはありがたかったなと思います。

自分から動き出すことはできなかったですね。
1年働かなかった人は、5年経っても、10年経っても、動き出すことはないと思うんです。自分は22歳にしてすでに、人生をあきらめていました。

親から子へ言わないでほしい言葉は、「この先どうするか?」「自分の育て方が悪くて申し訳ない」。

今、同じようにひきこもりの子どもを持つ親御さんへ、香織さん、洋輔くんにメッセージをもらった。

【洋輔くん】
とりあえず、「この先どうするか?」と聞かないであげてください。

この先どうするか決まっていないからひきこもっているわけで、むしろ「こういうのがあるけど行ってみない?」というふうにはじめから提案してほしいですね。

本当にイヤだったらすぐに「NO!」と言います(笑)。
でも、「うーん、イヤだなぁ」くらいだったらちょっとプッシュしてみてほしいですね。一瞬だけ「行こうかなぁ」と思っても親に対してはとりあえず「イヤだ」と言いますからね(笑)。

当時のことを思い出してみても毎日つらかった記憶ばかりだけど、今は自分の人生の一部として受け入れています。今なら仕事をクビになったとしても、以前のようにひきこもらないと思います(笑)。

【香織さん】
親は「自分の育て方が悪かった」と自分を責めると思うんですけれど、それは過去のことだし、そういう気持ちにはならないほうがいいと思います。
洋輔が言っていましたが、「育て方が悪かった、申し訳ない」と言われることは、「今のお前はダメだ」と言われていることと同じに思えるそうです。

今はつらい状態にあるかもしれないけれど、いずれ子どもは動き出します。だから、今までのことはもう忘れて、これからできることをやってください。

子どもを動かしたいと思うならまず自分から動く。
子どもを変えたいならまず自分から変わる。
私はそう思ってきました。

どうやって変わればいいのかわからなかったこともありましたけれど、[結]に来ればどうすればいいか教えてくれます。

私は、[結]に来るまでが一番つらかったです。誰にも言えない。どうしたらいいのかわからない。でも、「ここで相談できる」と思えたこと、月に一回は「助けて」と言える場所が持てたことで、すごくホッとすることができました。
きっと自分を安定させることができたら、子どもも安定してきたんじゃないかなと、今はそう思っています。

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